2025年6月27日、最高裁第三小法廷はついに、日本全国で争われてきた「生活保護基準引き下げ」について、国の措置を違法と断じる歴史的判決を下しました。
これは、2013〜2015年にかけて行われた生活扶助基準の最大約10%引き下げが、厚生労働大臣の裁量権の濫用に当たるとして、原告らの請求を認めたものです。最高裁が生活保護基準の引き下げを違法と判断するのは初めてであり、大きな社会的意義を持つ裁判です。
■ 地裁・高裁でも原告側の勝訴続出:全国29地裁・計1,000人超が提訴
全国では約29都道府県で、延べ1,000人以上の利用者が提起した「生活保護基準引下げ取消請求訴訟」がありました。地裁段階の判決では31件中20件で原告勝訴、高裁でも12件中7件が勝訴し、支援側の訴えが多数認められてきました。
**札幌高裁(控訴審)**では、札幌地裁が原告を退けた後、札幌高裁が逆転で原告勝訴を言い渡しました。原告は153名、控訴人のうち95名が生きてこの日を迎え、大きな決起となりました。
名古屋高裁では、全国で初めて国に対して国家賠償の支払い命令が出された原告勝訴判決になっています。
一方、大阪高裁では原告敗訴という判決もあったため、判断が割れる状況で全国的な焦点となりました。
■ 判決の核心:なぜ「裁量権の逸脱・濫用」なのか
最高裁の判断は単に引き下げ幅が大きいというだけでなく、「判断過程」に問題があった点を強調しています。
国は 物価下落率のみを根拠にデフレ調整 を行いましたが、生活保護世帯の実際の消費構造とは乖離しており、統計の合理性や専門的知見との整合性が不足していたとされました。
また、「ゆがみ調整」で議論された算定率を独断で「2分の1処理」にしたことが、審議会にも国民にも秘密裏に行われたこと自体が非合理的なプロセスであると指摘されています。
さらに、個別意見(反対意見)では、行政の説明責任や政策決定の透明性が不足していた点を問題視し、「なぜ隠したのか」「正当な議論の場を設けなかったのか」について批判が及んでいます。
■ 判決から見える新しい判断枠組み
この判決で採用されたのは、2012年の老齢加算訴訟最高裁判決と同様、以下の判断基準です:
被保護者の期待的利益への配慮の有無
判断過程の透明性・合理性・専門知見と整合性の有無
つまり、もう単なる官僚の裁量には任せられないというメッセージです。政策決定には客観的データと専門的分析が不可欠であり、そのプロセスが国民に分かる形で示されていなければならないという判断枠組みが確立されました。
■ 社会保障全体への波及効果:保護以外の制度にも影響
生活保護基準は、住民税非課税基準や国保減免、就学援助など、多くの制度に連動しています。判決による基準見直しは、生活保護だけではなく、これらの制度を利用する人たちにも対象範囲の見直しや再支給の可能性を生みます。
■ なぜこの裁判が重要なのか
今回の最高裁判決は、制度の現場と個人の実態が司法によって正当に評価された瞬間でした。これまで地道に声を挙げ続けてきた原告や支援団体の努力が、法的な形で認められたのです。また、行政に対して今後の制度運営における透明性と説明責任を求める明確な指標となりました。
引き下げによって生活が逼迫していた人、申請そのものを諦めていた人にとって、判決は希望の光です。
■ 次回予告:第2回では「受給者・支援者の声」を交えて
第2回では、実際に引き下げの影響を受けた属性ごとの声や、支援現場(支援団体・弁護士)からみた裁判の意義や課題を紹介します。また、国や自治体の対応についてもより具体的に掘り下げます。
司法の判断が暮らしにどうつながるのか、一緒に考えていきましょう。