~「時を超え、気づく」をテーマに、トラウマケアの現在と未来を学ぶ一日~
2026年5月24日、東京都中野区の明治大学 中野キャンパスにて開催された「日本EMDR学会 第21回学術大会」に参加しました。
今回の大会テーマは「時を超え、気づく」。
日本EMDR学会が一般社団法人となって初めて開催される学術大会ということもあり、精神科医、公認心理師、臨床心理士など、多くのトラウマ臨床に携わる専門職が全国から集まりました。
プログラムは、大会長講演、一般演題、教育講演、シンポジウム、特別講演と、一日を通して非常に充実した内容となっており、EMDRだけではなく、トラウマそのものを多角的に学ぶことができる学術大会でした。
目次
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大会テーマ「時を超え、気づく」
今回の大会テーマである「時を超え、気づく」という言葉は、一日を通して講演を聴く中で、その意味を少しずつ理解することができました。
EMDRでは、過去の出来事だけを見るのではなく、その出来事が現在の生きづらさにどのようにつながり、そして未来にどのような影響を与えているのかという「時間軸」を大切にします。
今回の学術大会も、過去・現在・未来という時間の流れの中で、人がどのように傷つき、どのように回復していくのかを様々な角度から考える内容となっており、大会テーマにふさわしいプログラム構成だったように感じました。
大会長講演「わたしたちのトラウマ」
大会は、大会長である竹内伸先生による「わたしたちのトラウマ」という講演から始まりました。
今回の大会テーマにも通じる内容であり、とても印象深い講演でした。
竹内先生は、セラピスト自身がトラウマというテーマにしっかり向き合うことの大切さについて、非常に穏やかで丁寧な語り口でお話ししてくださいました。
私たちはクライエントのトラウマを扱う立場ですが、自分自身がどのような経験をしてきたのか、自分自身の価値観や体験が面接場面にどのような影響を与えているのかを理解することもまた重要であるというお話は、とても考えさせられる内容でした。
「トラウマを学ぶこと」と「自分自身を知ること」は切り離せないということを改めて感じさせられた講演であり、今回の大会全体を象徴するようなお話だったと思います。
一般演題「高齢祖母の自動車暴走による孫と娘のPTSD」
午前中は一般演題として、大河原美以先生(大河原美以心理療法研究室)による「高齢祖母の自動車暴走による孫と娘のPTSD」を聴講しました。
司会はカウンセリングルームセコイアの檜原先生が務められていました。
発表では、一つの症例について、事例の概要から治療経過、EMDRを実施する中での見立てや考察まで、一つひとつ丁寧に説明してくださいました。
単に「治療がうまくいった」という発表ではなく、一つの症例をどのように理解し、どのような根拠で介入を行ったのかという臨床的思考過程まで知ることができ、大変勉強になりました。
経験豊富なベテラン心理士ならではの視点や見立ては、EMDRを学び始めたばかりの私にとっても多くの学びがあり、今後の臨床にも活かしていきたいと思える内容でした。
教育講演「EMDRトレーニングアップデート」
午後には、日本EMDR学会理事長の市井雅哉先生による教育講演「EMDRトレーニングアップデート-2023年の改訂で何が変わったか?-」が行われました。
私は改訂後のEMDRトレーニングを受講しましたが、今回の講演では、改訂前後で具体的に何が変わったのか、そして、その変更にはどのような目的があったのかについて、トレーナー・ファシリテーターの立場から丁寧に説明してくださいました。
Weekend1は2023年、Weekend2は2024年から新しいトレーニングマニュアルへと改訂され、より複雑なトラウマを抱えるクライエントにも柔軟に対応できる内容へと発展しています。
受講生として学ぶだけでは見えてこない「なぜこのような改訂になったのか」という背景まで知ることができ、とても有意義な教育講演でした。
シンポジウム「愛着トラウマとEMDR」
午後は「愛着トラウマとEMDR」というシンポジウムに参加しました。
シンポジストは、北海道大学学生相談総合センターの石井治惠先生、こころとからだ・光の花クリニックの白川美也子先生、早河カウンセリングオフィスの早河ゆかり先生のお三方でした。
愛着トラウマをEMDRで扱う際にどのような配慮が必要なのか、また、愛着トラウマとはどのようなものなのかについて、それぞれ異なる立場から丁寧にお話しくださいました。
一つのテーマでも、臨床現場や対象によって見え方が異なることがよく分かり、多角的に愛着トラウマを理解することができました。
また、Attachment Focused EMDR(アタッチメント・フォーカストEMDR)などの特殊なプロトコルについても紹介され、通常のEMDRとの違いや適応について学ぶことができました。
愛着に関する問題は日常臨床でも出会うことが多く、今後さらに学びを深めていきたい分野であると改めて感じました。
特別講演「トラウマを文脈的に捉え直す」
学術大会の最後は、原宿カウンセリングセンター顧問、日本公認心理師協会会長である信田さよ子先生による特別講演でした。
講演テーマは「トラウマを文脈的に捉え直す」。
信田先生は1995年から現在まで第一線で活躍されている臨床家であり、アディクション、DV、虐待、家族支援など、日本の心理臨床を長年牽引されてきた先生です。
講演では「今年80歳になります」とお話しされていましたが、60分間一度も椅子に座ることなく、豊富な知識と経験を次々とお話しされる姿はとてもエネルギッシュで、その臨床への情熱に圧倒されました。
講演では、ご自身が1990年代に提唱され、その後アディクション臨床の基本的な考え方として広く普及したアディクションアプローチについて振り返りながら、アダルトチルドレン(AC)の概念や、アディクション、DVとトラウマケアがどのようにつながっているのかを分かりやすく説明してくださいました。
特に印象に残ったのは、「時間」とトラウマとの関係についてのお話です。
トラウマとは、過去・現在・未来という近代的な時間概念が成立して初めて生まれた概念であり、フラッシュバックなどの症状も直線的な時間の流れの中で起こるという視点は非常に新鮮でした。
また、アディクションも直線的な時間感覚を一時的に変化させることで、結果としてフラッシュバックを防ぐ役割を果たしているという考え方は、これまでに聞いたことのない切り口であり、とても興味深く感じました。
さらに、「トラウマ概念の政治性」というテーマについてもお話がありました。
『PTSDの医療人類学』や『戦争とトラウマ』といった書籍を例に挙げながら、政治や権力関係とトラウマ概念との関連について詳しく解説してくださいました。
そこから導き出されたのが、臨床における「ポジショナリティ」の問題です。
臨床家が「中立」でいようとすると、結果的に力を持つ側の立場に立ってしまうことがある。DVやアディクション、トラウマ支援においては、中立であることよりも、「誰の立場に立って支援を行うのか」を明確に意識することが重要であるというお話は、とても印象に残りました。
支援者として、技法だけではなく、自分自身がどのような立場で臨床に向き合うのかという姿勢についても改めて考えさせられる講演でした。
おわりに
今回の学術大会は、EMDRという技法だけを学ぶ場ではなく、「トラウマとは何か」「支援者としてどのように在るべきか」を改めて考える一日となりました。
大会テーマである「時を超え、気づく」という言葉には、クライエントだけでなく、私たち支援者自身も過去・現在・未来という時間の流れの中で学び続け、自分自身に気づき続けることの大切さが込められているように感じます。
EMDRは現在も進化を続けており、新たな知見や技法が次々と生まれています。しかし、それ以上に、自分自身の臨床を振り返り、目の前のクライエントに誠実に向き合い続ける姿勢の大切さを改めて実感した学術大会でした。
今週末の7月11日・12日には、日本EMDR学会継続研修が開催されます。今回の学術大会で得た学びをさらに深め、新たな知識や技術を身につけられることを今から楽しみにしています。今回の学術大会で得た気づきを継続研修でさらに発展させ、今後の臨床実践に活かしていきたいと思います。