扶養照会が必要ない場合とは?厚労省文書を解説

厚生労働省は、2021年に各自治体に文書を出し、申請者本人が扶養照会を拒んでいる場合、丁寧な聞き取りをして扶養照会が不要なケースに当たらないか検討するよう求めました。また「扶養が期待できない」とする判断基準についても、具体的な事例や数字を改めて示しています。
今回はこの文書内容がどのようなものなのか、詳しく解説したいと思います。

厚労省の文書はこちら(000746078)から見ることができます。


この文書は、生活保護を受ける人々が扶養義務者からの援助が期待できないと判断される基準について説明しています。
扶養義務者とは、通常、親や子供など、法律的にその人を支える責任がある人を指します。

まず、文書は生活保護法第4条第2項について説明しています。これは、扶養義務者が存在すれば、扶養義務者による援助が保護に優先して行われるという内容の法律です。ただし、扶養義務者が援助をすることができるかどうか、または扶養義務者が援助をする意思があるかどうかは、保護が必要かどうかの判断に影響を与えるわけではないとされています。

生活保護法 第四条 保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2 民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3 前二項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。

そこで、この文書では、特に「扶養義務の履行が期待できない」と判断される人々についての基準と手順について説明しています。例えば、その人が援助をすることが物理的に不可能であるか、またはその人が援助をする意思が全くない場合などです。これらの人々に対しては、通常、生活保護を受ける人のためにお金を出すことは求められません。

扶養義務者がいる場合、その人に対する調査は以下のような手順で行われます。

  1. まず、その人が存在するかどうかを確認します。これは、生活保護を必要とする人からの聞取りや公的な記録(例えば戸籍)をもとに行われます。
  2. 次に、その人が援助をすることが可能かどうかを調査します。これは、「可能性調査」と呼ばれ、生活保護を必要とする人からの聞取りなどをもとに行われます。この段階では扶養義務者に直接問い合わせることはしません。この調査では、金銭的な援助だけでなく、精神的な支援の可能性も考慮されます。
  3. 可能性調査の結果、その人が「扶養義務の履行が期待できない」と判断された場合、個別に慎重な検討を行った上で、扶養照会を行わないこととしても差し支えはありません。ただし、扶養義務者が生活保持義務関係にある者である場合は、関係機関等に対する照会を行う場合があります。生活保持義務関係にある者とは、「夫婦」「中学3年以下の子どもに対する親」の関係をいいます。
  4. 扶養照会の方法は、文書による行われるのが原則です。ただし、「生活保持義務関係者」など「重点的扶養能力調査対象者」とされた場合には実地で調査を行う(実施機関の管内に居住する場合)など、重点的に調査を実施することとしています。

扶養義務履行が期待できない者の類型

この部分では、扶養義務履行が期待できないと考えられる人々の3つの典型的な類型を挙げています。

扶養義務者自体が経済的に援助を行えない状況にある場合(例:生活保護を受けている者、社会福祉施設入所者、長期入院患者、働いていない者(専業主婦・主夫等)、未成年者、高齢者など)。

特別な事情があり明らかに扶養ができない場合(例:扶養義務者に借金を重ねている、相続をめぐる対立がある、縁を切られている、扶養義務者との間に深い不和があるなど)。

扶養を求めることが被保護者の自立を阻害すると判断される場合(例:夫の暴力から逃れてきた母子、虐待等の経緯がある者など)。

上記類型への当てはめ

この部分では、上記の例が全てを網羅しているわけではないと説明しています。つまり、これらの事例に直接当てはまらないケースでも、事情が似ている場合は「扶養義務履行が期待できない者」と判断することができます。なお、10年間程度音信不通である場合は、その他の個別事情の有無を問わず、扶養義務履行が期待できない者と判断してよいとされています。

扶養を求めることにより被保護者の自立を阻害する場合の取扱い

最後の部分では、扶養義務者への依存が被保護者の自立を阻害すると考えられる場合について取り扱っています。これは上記で挙げた類型の中で③に当たるケースで、例えば家庭内暴力から逃れた母子や虐待の履歴がある者など、扶養義務者に扶養を求めることが被保護者の精神的・身体的健康を損なう可能性があるときに当てはまります。このようなケースでは、たとえ生活保持義務関係者であっても扶養照会を控えることになります。

また、このセクションは、「関係先調査」についても言及しています。関係先調査とは、扶養義務者に関する詳細情報を関係機関から収集するプロセスです。ここで重要な点は、調査を行う際に、調査を行っている事実や被保護者の居住地などを扶養義務者本人に知られることを防ぐために、十分な配慮をする必要があるという点です。
この調査の結果、要保護者の申し出が虚偽であると判明した場合には、再度扶養義務者についての調査を行い、「扶養義務履行が期待できない者」でないことが確認された場合は、扶養照会を行います。


 

 

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