最高裁が生活保護基準「違法判決」(第2回) 実際にどのように闘われてきたのか

第1回では、最高裁による「違法」判決の法的意義と審査枠組みについて詳しくお伝えしました。今回はその舞台裏、全国の地方裁判所から高等裁判所、そして支援現場に寄せられた当事者の声を交えながら、裁判が社会にもたらした意味を具体的に掘り下げます。


地方裁判所でも多くの勝利──「いのちのとりで裁判」

この問題は、全国29都道府県、延べ1,000人以上の生活保護利用者によって提訴された「いのちのとりで裁判」として知られています。(参考:第二東京弁護士会渕上報告)
地裁レベルでも勝訴が相次ぎ、判決のうち少なくとも17件が原告勝利でした。特に注目されたのは、次のような事例です。

  • 札幌高裁(控訴審):一審の地裁では敗訴判決もあったものの、高裁で逆転勝訴。原告多数が長年の苦しい生活状況を語り、重要なターニングポイントとなりました。

  • 広島高裁:2025年4月18日、控訴審で命じられた原告勝訴。厚生労働大臣の判断過程に「明らかな過誤、欠落」があると認定されました。高裁で原告勝訴が続く流れは、最終的な最高裁判決にも大きく影響しました。

  • 東京地裁・高裁:2024年、複数の地裁で原告勝訴判決が続き、高裁でも勝訴を重ねました。特に「老齢加算訴訟」の判断枠組みに基づき、裁量の限界と手続きの透明性が司法に認められたことが重要です。

  • 名古屋高裁:全国でも有数の原告全面勝訴判決が出され、国家賠償請求にも一定の判断を示した点で注目されました。

これらの地裁・高裁での積み重ねが、最高裁における判断の法的基盤を固めていきました。


支援現場で語られた切実な声

「ただ生かされているだけです」──

ある原告の小寺アイ子さん(80歳)が法廷で述べた言葉です。長年続けてきた仕事を健康上の理由で失い、生活保護に頼らざるを得なくなった中で、電気代を削り、お風呂も数日に一度…。その日記にはこう記されていました。

「法律はかざりか。市民のために仕事せんか。…米食ってない」

この言葉は、法廷にいた多くの人の胸を打ちました。政治のスローガンや政策の犠牲として切り捨てられてきた「日常」がそこにありました。支援団体や弁護士も法廷で声をあげました。名古屋訴訟では厚生労働省が選挙公約に基づく引き下げを行ったという主張が認められ、「政治的介入」の問題として裁判所にも重く受け止められました。


裁判から読み取る支援の意味と制度の課題

この裁判で使われた判断基盤は、「判断過程審査」。改定そのものではなく、どのようにその判断に至ったか、そのプロセスが合理的だったかを審査対象とします。これは、過去の「老齢加算訴訟」でも用いられたものですが、今回はより多くの現場証言と統計的裏付けが、法廷の判断を支えました。支援に関わった人の数は計り知れません。生活相談を続けたケースワーカー、証言を取りまとめた弁護士、市民団体による署名・集会支援…。それぞれの行動が形になったのです。


今後に向けて:司法的な勝利を制度改革に結び付けるには

最高裁の判決は、単なる「法的勝利」に終わるのではなく、制度のあり方を見直す契機にならなければなりません。高裁での勝訴が維持された背景には、被保護者の声が司法判断と一致したからです。

  • 申請できなかった人への救済

  • 生活扶助の再計算と補填

  • 基準見直しに専門知見と公開プロセスの導入

  • 他制度(住民税非課税、就学援助など)への影響のフォロー

など、現場の支援活動が今こそ結実するフェーズに入りました。


第2回まとめ

  • 地裁・高裁では、全国で多数の原告勝訴が積み重ねられた。

  • 支援現場からの声が司法判断に直結した事例も多い。

  • 今後は制度運用の透明化と補償・再設計が求められる。

次回第3回は、「今後私たちができること」に焦点を当てます。行政・制度としての改善点と、私たちの社会的責任について、一緒に考えていきましょう。


 

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