社会保障審議会生活保護基準部会報告書に対する緊急声明


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生活保護問題対策全国会議が「社会保障審議会生活保護基準部会報告書に対する緊急声明」を発表しました。

生活保護問題対策全国会議は、すべての人の健康で文化的な生活を保障するため、貧困の実態を明らかにし、福祉事務所の窓口規制を始めとする生活保護制度の違法な運用を是正するとともに、生活保護費の削減を至上命題とした制度の改悪を許さず、生活保護法をはじめとする社会保障制度の整備・充実を図ることを目的として、2007年6月に設立された団体です。法律家・実務家・支援者・当事者などで構成されています。


12月6日の生活保護基準部会で報告書が取りまとめられましたが、部会に提示された資料によると75歳以上の高齢者の生活扶助基準が、またぞろ引下げとなる懸念があります。
そこで、生活保護問題対策全国会議では、改めて以下の緊急声明を発出しました。
2013年からの史上最大の生活扶助基準引下げについて、これを違法とする判決が相次ぎながら、何ら是正が図られていない中、また、40年ぶりという異常な物価高騰の中、これ以上の保護費の引下げは到底許されません。

【声明要旨】

  1. 十分な議論、検証がされていないこと
  2. 中位所得層の消費水準の6割を切っている第1十分位層を比較対象とすべきではないこと
  3. 目下の物価高騰が消費水準に与える影響が把握できない現時点における生活扶助基準の見直しはすべきでないこと

    声明全文

2022年12月9日

 

社会保障審議会生活保護基準部会報告書に
対する緊急声明

 

生活保護問題対策全国会議
代表幹事 尾 藤 廣 喜
〒530-0047 大阪市北区西天満3丁目14番16号
西天満パークビル3号館7階あかり法律事務所
電話06‐6363-3310 fax06‐6363-3320
事務局長 弁護士 小久保 哲 郎

1 75歳以上の生活扶助基準の引下げが懸念されること
2022年12月6日に開催された第51回社会保障審議会生活保護基準部会(以下「部会」という。)では、事前に公表されていた「社会保障審議会生活保護基準部会報告書」を大筋で了承したものと報道されている。
同部会に提示された参考資料2「世帯類型別の低所得世帯の消費水準」(以下、「当該資料」という。)は、夫婦子1人世帯(勤労者)、高齢夫婦世帯(65歳以上)、高齢単身世帯(65歳以上)、高齢夫婦世帯(75歳以上)、高齢単身世帯(75歳以上)、若年単身世帯(65歳未満 勤労者)の6つの世帯類型における低所得世帯の消費水準を算出したものである。その算定方法は、「2019年全国家計構造調査の特別集計により、生活保護を受給していると推察される世帯を除く世帯のうち、各世帯類型における年収階級第1・十分位の生活扶助相当支出額」とされている。
これによって算出された消費水準は、例えば都市部にあたる1級地の1の高齢単身世帯(75歳以上)では6万6000円であり、現行の生活保護基準によって導かれる最低生活費7万1900円よりも8.2%も低い。また、高齢夫婦世帯(75歳以上)でも、算出された低所得世帯の消費水準が級地によって6.8~3.9%、現行の生活保護基準よりも低いとされている。
当該資料には、「実際の生活扶助基準は、上記の結果を含む検証結果のほか、社会経済情勢等を踏まえて、今後、予算編成過程において検討される」とも記載されているものの、来年度の生活保護基準見直しにあたって考慮要素とされ、75歳以上の高齢者の生活扶助第1類費(年齢別の生活費)が減額改定となることが強く懸念される。
しかしながら、当該資料には、以下述べるとおり、種々の問題が存在するので、これを減額改定の根拠とすることは許されない。

2 当該資料の問題点
⑴ 十分な議論、検証がされていない
当該資料は、部会の最終回である第51回になって突然提示されたものであり、その内容は部会においてこれまで十分な議論、検証がなされてこなかったものである。

⑵ 中位所得層の消費水準の6割を切っている第1十分位層を比較対象とすべきではない
当該資料によっても、「展開後の消費水準の中位所得対比」は、「高齢夫婦世帯(75歳以上)で56%又は58%、「高齢単身世帯(75歳以上)」で54%又は55%となっている。1984年以来採用されている「水準均衡方式」は、平均的な一般世帯(具体的には近時は年収階級第3・五分位)の消費水準の60%以上で生活扶助基準が均衡していることを求めるものであるところ、上記のとおり、中位所得層の消費水準の6割を切っているということは、第1・十分位層の消費水準が、あるべき最低生活費の水準を下回っていることを意味しており、そもそも第1・十分位層を比較対象とすること自体が不適切である。

⑶ 目下の物価高騰が消費水準に与える影響が把握できない現時点における生活扶助基準の見直しはすべきでないこと
そもそも、今年夏以降に続く物価上昇は40年ぶりの上昇率という局面に至っており、特に生活必需品である食料品や光熱水費の上昇が著しく、生活保護世帯を含む低所得世帯の家計を逼迫させている。このように特異な物価高騰が、低所得世帯(第1・十分位又は第1・五分位)の消費支出にどのような影響を与えているかは現時点では全く明らかとなっていない以上、当該資料に記載された検証結果にこの間の特異な物価上昇を適切に反映させることは事実上不可能である。基準部会報告書(33ページ)が、「足下では、新型コロナウイルス感染症による影響等だけでなく、物価が上昇していることにより消費の実態が変化していると考えられることにも留意が必要である。」、「令和元年以降の新型コロナウイルス感染症による影響や物価上昇等を含むこうした社会経済情勢の変化については、2019年全国家計構造調査による検証結果に、家計調査当による経済指標の動向により機械的な調整を加えて消費実態との均衡を評価することは難しいと考えられるが、足下の実態を捉えるにあたって考慮しなければならない重要な事項である。」と強調して指摘しているのも、現在の物価高騰が消費実態にどのような影響を与えているかを把握し得ない現時点における保護基準見直しに反対する趣旨であると理解できる。

3 結語
そこで、私たちは、厚生労働省に対し、75歳以上の高齢世帯について当該資料を根拠とした生活扶助基準の引下げを行わず、むしろ現下の物価高騰に対応する生活保護基準全体の引上げの措置を直ちにとるよう強く求める次第である。

以 上


 

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