こんにちは。今回は生活保護における「扶養照会」について解説したいと思います。扶養照会とは何でしょうか?どのような課題があり、それがどう生活保護の申請者やその家族に影響を与えているのでしょうか?
目次
扶養照会とは何か?
扶養照会とは、生活保護を申請した人や、受給が決まった人に関して、自治体がその親族に、何らかの援助ができるかどうかを問うシステムのことを指します。これは、生活保護において「扶養は保護に優先する」という決まりがあるため、親族が経済的援助ができる場合はその援助を優先させ、その分、保護費を減らすという目的があります。
照会の対象となる親族は、民法上で「扶養義務」がある3親等までの親族が含まれます。具体的には、父母や子ども(1親等)、きょうだいや祖父母、孫(2親等)、さらにはおじ、おば、甥、姪(3親等)などが対象とされています。
扶養照会はどのような情報を求めるのか?
照会の対象となる親族には、主に文書で問い合わせが行われます。その質問事項とは、親族が金銭的援助(仕送り)や精神的支援(定期的な訪問や電話連絡など)が可能かどうか、そして可能な場合は具体的にどのような内容か、さらには親族の家族構成、職業、年収、資産状況などを聞くことが一般的です。
下記が実際の照会文書です。インターネット上で自治体が公開しているものを掲載しています。実際の書式は自治体によって異なってきます。
下記は照会に対する回答書です。扶養照会を受けた人は下記のような項目に答えることになります。こちらも実際の書式は自治体によって異なってきます。
扶養照会がなければ生活保護は受けられないのか?
親族の扶養や照会がなくても、生活保護を受けることは可能です。厚生労働省は「扶養が期待できない」親族の例を示しており、その例としては、未成年、70歳以上の高齢者、音信不通の親族(10年程度)、借金をするなど著しい関係不良のある親族などが挙げられています。これらの状況に該当する親族に対しては、自治体は扶養照会を行わなくても良いとされています。
ただし、どこまで詳しく申請者に親族関係を聞き取るか、また実際に扶養照会の対象から除外するかは、自治体の判断に委ねられています。
扶養照会が生活保護の障壁になっている?
生活保護制度は、最低生活費を下回る収入の世帯に対してその差額を支給する仕組みです。しかし、実際には受けるべき人が全員受けられているわけではありません。本来保護が必要な人のうち、どのくらいの人が保護を受けているかの割合を「捕捉率」といいます。保護の捕捉率の低さは生活保護における構造上の問題としてしばしば指摘されています。
その大きな要因の一つとして指摘されるのがこの扶養照会です。なぜなら、扶養照会によって家族や親族に生活保護のことを知られることを嫌がり、申請しない人がいるです。扶養照会が生活困窮者の支援を阻んでいるとの見方もあります。
扶養照会に対する自治体の見解は?
扶養照会については、それぞれの自治体の福祉事務所が取り扱っています。その職員らの意見を調査すると、半数以上が何らかの形で制度の改革を求めています。その一方で、現行制度の維持を望む声も約半分存在します。
制度改革を望む理由としては、照会の効果があまりない、申請者との信頼関係を損なう可能性がある、職員の事務負担が大きい、保護申請をためらう要因になっているなどが挙げられます。逆に、現行制度の維持を望む理由としては、被保護者に何かあった際の連絡先把握、精神的援助の可能性、金銭的援助の可能性などがあるとされています。
日本政府の考え方は?
一方、日本政府は扶養照会制度についてどう考えているのでしょうか。厚生労働省は、2021年に各自治体に文書を出し、申請者本人が扶養照会を拒んでいる場合、丁寧な聞き取りをして扶養照会が不要なケースに当たらないか検討するよう求めました。また「扶養が期待できない」とする判断基準についても、具体的な事例や数字を改めて示しています。
しかし、現状では自治体の対応が分かれており、本人の意向をどれだけ尊重するかは自治体ごとに異なっています。これにより、支援団体などからは状況が十分に改善されていないとの指摘もあるのが現実です。
まとめ
扶養照会は生活保護制度において本当に必要なシステムなのか?扶養照会が生活保護申請を抑制する一因となり、生活保護を必要とする人々の支援を阻害している可能性はないか?
生活保護は憲法に保障された、誰にとっても極めて重要な制度です。扶養照会をどのように扱うべきか、どのように改善していくべきかは、これからの日本社会における大きな課題と言えるでしょう。