生活保護を受けている方々の中には、今の住居からの引っ越しを考えている方もいるかと思います。しかし、引っ越しは生活保護を受けているからといってできないのではないかと悩む方も多いかと思います。ここで、その疑問に答えていきたいと思います。
引っ越しは基本的に自由
まず、基本的な前提として、生活保護受給者が引越しを希望する場合、制約を受けることは基本的にありません。これは、日本国憲法第22条に「居住・転居の自由」として定められているためです。
日本国憲法
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
ただし、完全に制約がないわけではありません。引っ越しの目的や新しい物件の条件によっては、制約を受けることが考えられます。例えば、現在の家賃よりも安い物件への引っ越しは、特に問題なく許可されることが多いです。しかし、「広い部屋に引っ越したい」や「ペットが飼いたい」といった最低限度の生活とは関係ない理由での引っ越しは、許可が出にくい場合があります。
ケースワーカーの許可は必要
生活保護受給者が引っ越しをする場合、事前に福祉事務所に連絡し、許可を得ることが必要です。ケースワーカーに無断で引っ越しをしてしまうのは避けましょう。理由としては、福祉事務所の指導やサポートが必要となることもあるからです。
引っ越し費用を支給してもらえるか?
引っ越しをするには、その費用が必要となります。特に、生活保護受給者の方々にとって、引っ越しの際の費用は大きな負担となることが考えられます。自己都合で引越しをする場合、全額が自己負担となります。一方で、特定の条件を満たした場合、生活保護法に基づく「住宅扶助」の対象として引っ越し費用の一部が補助されることがあります。
具体的には、以下の16の条件のうち1つでも満たす場合、引っ越し費用の補助が受けられます。
- 病気で入院する人の退院後の住居がない場合
- 家賃が生活保護法の規定をオーバーしてケースワーカーの指導を受けての住み替えの場合
- 国や自治体から土地収用を理由に立ち退きを強制を受けて転居が必要な場合
- 仕事を退職して社宅から転居する必要がある場合
- 社会福祉施設から退所して帰るための家がない場合
- 宿泊提供施設等を仮住居としていた人の居宅生活の許可が下りた場合
- 自宅から遠距離での通勤が困難になること。かつ会社の近くに住むことで世帯収入の増加、働いている人の健康維持に役に立つと認められる場合
- 火災等で現住居が消滅し、または居住できない状態となった場合
- 自宅の老朽・破損 居住できないで取り壊しが決まった場合
- 世帯人数からみて現住居が明らかに狭い場合
- 病気療養に環境条件が悪いと認められる場合、または身体障がい者に設備構造が居住に適さない場合
- 親戚、知人宅等に一時的に身を寄せていた人が転居する場合
- 賃貸人が退去を強く要求または借家契約の更新の拒絶し、解約の申し入れによって、やむをえず転居(立ち退きを迫られている)する場合
- 離婚により現在の住所を出て、新しい住居が必要な場合
- 高齢者・障がい者 扶養義務者の介護を受けるために扶養義務者の近隣地区に引っ越す場合
- グループホームや有料老人ホーム、バリアフリー住宅への入居が必要と判断される場合
ただし、これらの条件の中でも、1つも該当しない場合は住宅扶助は受けられません。
また、市町村をまたいでの引っ越しの場合、福祉事務所の管轄が変わるため、移管の手続きが必要です。この手続きは比較的煩雑とされるため、十分な注意が必要です。
市町村をまたいだ引越しについての注意点
生活保護を受けている際に、市町村をまたぐような引っ越しを検討している方には、特に注意が必要です。例を挙げますと、東京都豊島区から板橋区への移住の際には、異なる福祉事務所の管轄となります。そのため、移管の手続きが求められるのです。
この移管の手続きには、それぞれの福祉事務所間での調整や連絡が必要となるため、一般的な引っ越しよりも手続きが煩雑になりがちです。特に同じ都道府県内であっても、区や市の変更が生じる場合には、このような手続きの必要性が発生します。
そのため、市町村をまたぐ引越しを検討している方は、可能な限り早めに福祉事務所へ相談することを推奨します。その際に、具体的な移住先や引っ越しの時期、理由などをしっかりと伝えることで、スムーズな移管手続きのサポートを受けられるでしょう。
2回目の引っ越しは?
一度引っ越しをしても、何らかの理由で新しい住居になじめない場合があります。その際の2回目以降の引っ越しも、ケースワーカーの許可を得れば可能です。再度の引っ越しを考慮する際も、前述の16の条件を満たさなければ、住宅扶助を受けることはできません。