生活保護世帯へのエアコン設置に関する要望書

ご案内をいただきましたので転載します。


生活保護問題対策全国会議と全国クレサラ・生活再建問題対策協議会(クレサラ対協)は、本日、厚生労働大臣に対し、「エアコン設置費用を生活保護世帯に柔軟に支給できるよう厚生労働省通知の改正等を求める要望書」を発出しました。

記録的猛暑が続き、国が「熱中症対策を強化するための気候変動適応法(略)」(令和5年6月1日一部施行)なるものまで施行されるなか、厚労省の対応は5年前(2018年)にできた制度を周知するにとどまり一歩も前進していません。

国も「熱中症弱者」と認める生活保護利用者に対するエアコン設置費用の支給要件は極めて制限的で、厚労省は「エアコン設置費用は保護費を節約して貯蓄せよ」という原則を未だに崩していません。

しかし、相次ぐ生活保護基準の引下げで、生活保護利用世帯が貯蓄をすることは相当厳しくなっています。また、この物価高と電気代高騰の中、エアコンがあっても使わない(使えない)という声もよく聴きます。

本体の基準をここまで切り下げている以上、せめてエアコン設置費用などの生命・健康にかかわる一時扶助は柔軟に支給できるようにすべきです。
情報の拡散と同様の声を国に届けていただくよう、お願いいたします。

(PDFはこちらからダウンロードできます)
http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/blog-entry-488.html

2023(令和5)年8月10日


エアコン設置費用を生活保護世帯に柔軟に支給できるよう
厚生労働省通知の改正等を求める要望書

厚生労働大臣 加藤 勝信 殿
              生 活 保 護 問 題 対 策 全 国 会 議
              全国クレサラ・生活再建問題対策協議会

題1 要望の趣旨

1 生活保護世帯にエアコンの持ち合わせがなく、その設置が必要と認められる場合には柔軟にエアコン設置費用を支給できるようにするとともに、支給上限額を10万円に引き上げるよう、厚生労働省通知を改正すべきである。

2 故障したエアコンの修理費用を「住宅維持費」として支給できることを明確にする厚生労働省通知を発出すべきである。

3 夏季加算を創設し、生活扶助基準を引上げる厚生労働大臣告示を発出すべきである。

第2 要望の理由

1 記録的猛暑の更新による熱中症等の増加

  本年(2023年)7月の平均気温は25.96度で日本の観測史上最も平均気温が高く、同月25日以降は1日の平均気温が28度を上回る例のない暑さが続いたが、8月はより高くなるおそれがある。2000年ごろから顕著に暑い日が続いており、2018年には猛暑日(最高気温が35度以上)が59日、熱帯夜が146日を記録し、昨年(2022年)もそれぞれ16日と129日あった 。地球温暖化が進む中、この傾向は年々さらに悪化していくことが容易に推測される。
  温暖化に伴い、1996年から2000年に年平均179人だった熱中症による死亡者は、2017年から2021年には年平均1145人に大幅に増加しており、昨年(2022年)東京23区内の熱中症死亡者206人のうち65歳以上の高齢者が87%で、屋内の死亡者194人のうち85%がエアコン不使用か不所持だったという 。

2 生活保護世帯の8割以上が熱中症リスクの高い高齢者、障害・傷病者世帯であること
  熱中症にならずとも「暑さ」自体が基礎疾患に悪影響を与えることは自明であるところ、生活保護世帯のうち高齢者世帯(男女とも65歳以上の者のみで構成されている世帯か、これに18歳未満の未婚者が加わった世帯)が55.6%、障害・傷病者世帯(世帯主が重い障害や傷病を負っているか働けない者である世帯)が24.8%を占めており 、その合計は80.4%に及ぶ。「その他世帯」や「母子世帯」にも高齢者や障害・傷病者は多く含まれており、生活保護世帯は、熱中症等による死亡や健康悪化のリスクが特に高い集団である。
  したがって、上記の熱中症による死亡者の中には、生活保護世帯が相当程度含まれていることが推察される。

3 厳しすぎるエアコン設置費用支給に関する厚生労働省通知
⑴ 支給要件緩和の必要性
  この点、厚生労働省は、近年、熱中症による健康被害が数多く報告されていることを踏まえ、2018年6月27日に発表した社会・援護局長、保護課長通知で保護の実施要領を改正し、一定の条件を満たす場合にエアコン等の冷房器具購入費と設置費用の支給を認めることとした。
  しかし、研究者らでつくる「生活保護情報グループ」によると、2018年から2019年に全国でエアコン購入費が支給されたのは9025件にとどまり、保護世帯1千世帯あたりの件数を自治体ごとに計算すると政令指定都市では最少0.7件から最多11件とバラつきがあったという。
  これは、上記厚生労働省通知が定める支給要件が厳格に過ぎ、分かりにくいことに起因していると考えられる。すなわち、エアコン購入費の支給要件としては、以下のⒶⒷの両要件を満たす必要があるとされている。

Ⓐ 2018年4月1日以降に以下の5つのいずれかに該当すること
(ア)保護開始された人でエアコン等の持ち合わせがない
(イ)単身者で長期入院・入所後の退院・退所時にエアコン等の持ち合わせがない
(ウ)災害にあい、災害救助法の支援ではエアコン等をまかなえない
(エ)転居の場合で、新旧住居の設備の相異により、新たにエアコン等を補填しなければならない
(オ)犯罪等により被害を受け、又は同一世帯に属する者から暴力を受けて転居する場合にエアコン等の持ち合わせがない
                  +
Ⓑ 世帯内に「熱中症予防が特に必要とされる者」がいる場合

  しかしながら、Ⓐについていえば、2018年度以降の保護開始、退院・退所、転居等の場合にかかわらず、持ち合わせがない場合には設置費用を支給すべきである。とりわけ、近年の相次ぐ生活保護基準の引下げや記録的な物価高によって、生活保護世帯がこうした費用を貯蓄することは極めて困難になっていることからすれば、その必要性は切実である。

  また、Ⓑの「熱中症予防が特に必要とされる者」(局長通知第7の2の(6)のウ)については、課長通知問100が、「体温の調節機能への配慮が必要となる者として、高齢者、障害(児)者、小児及び難病患者並びに被保護者の健康状態や住環境等を総合的に勘案の上、保護の実施機関が必要と認めた者が該当する。」との判断基準を示している。
  この判断基準は、「被保護者の健康状態や住環境等を総合的に勘案の上、保護の実施機関が必要と認めた者が該当する」とされていることからすれば、実施機関の判断で柔軟に支給する余地もある一方、「高齢者、障害者、小児、難病患者」が例示されていることからこうした者が世帯内にいない場合の適用が避けられるおそれも強い。
  すなわち、この要件の存在が上記の自治体間格差を生んでいる可能性が高いのであり、日本全国が灼熱列島となっている今日においては、この要件は削除すべきである。

⑵ 支給上限額引上げの必要性
  エアコン購入費と設置費用の支給上限は、当初5万円とされていたが、その後徐々に増額され、本年(2023年)4月からは6万2千円とされている。
   しかしながら、総務省統計局が実施している「小売物価統計調査(動向編)」によれば、「ルームエアコン」の大都市部 における年平均価格(2022年)は7万7399円であり、「ルームエアコン取付け料」の大都市部 における年平均価格(調査終了時である2016年)は2万1321円であって、その合計は9万8720円であるから、6万2千円ではエアコンの購入・設置費用として不十分である。
  したがって、その上限は10万円に引上げるべきである。

4 エアコン修理費支給の必要性
  
  既に設置されているエアコンが故障したが、その修理費が賄えないという相談も多い。
  上記厚生労働省通知によって、エアコンは最低生活維持のために必要とされる家具什器であることが明確になっていることからすれば、エアコン等の修理費は、「被保護者が現に居住する家屋の…従属物の修理…のために経費を要する場合」の「住宅維持費」(実施要領局長通知第7-4(2)ア)に該当するものとして支給できることを通知の発出によって明確にすべきである。

5 夏季加算の創設と生活扶助基準引上げの必要性
  
  先にも述べたとおり、この間、生活保護基準の引下げが相次いでいる。すなわち、2013年には生活扶助基準の引下げ(平均6.5%、最大10%、削減額670億円)、2015年には住宅扶助基準と冬季加算の引下げ(削減額220億円)、2018年には生活扶助基準の引下げ(平均1.8%、最大5%)と母子加算等の削減(削減額160億円)が行われた。2013年からの引下げの違法性を争う「いのちのとりで裁判」では、これまでに言い渡された22の判決のうち11の判決が引下げを違法と断罪している。にもかかわらず、国はさらなる生活扶助基準引下げ(高齢単身世帯は8%等)や級地の見直しによる都市部の生活扶助基準の引下げの方針を示しており、現在物価高で凍結されているものの2025年からは引下げが断行される可能性が高い。
  相次ぐ引下げと記録的物価高で、生活保護世帯の生活は極めて厳しい状況であり、エアコン設置費用等を貯蓄する余裕がないことはもちろん、エアコンがあっても光熱費の節約のため使わないという者も多い。
  もはや冬の暖房代以上に夏の冷房代の方が生命・健康の維持のためには切実に必要なのであり、冬季加算だけでなく夏季加算を早急に創設すべきである。
  また、これ以上の生活扶助基準の引下げは止め、生活扶助基準本体も引き上げるべきである。

5 厚生労働省の施策がまったく不十分であること
  
  厚生労働省社会・援護局保護課は、令和5年6月1日付けで「生活保護世帯におけるエアコン購入費用に関する取扱い等について(周知)」と題する事務連絡を発出した。この事務連絡は、「国内の熱中症による死亡者数は増加傾向が続いており、近年では年間1000人を超える年が頻発していることから、「熱中症対策を強化するための気候変動適応法(略)」が令和5年6月1日付けで一部施行され、熱中症対策に係る政府一体となった取組を強化するため、熱中症対策実行計画(令和5年5月30日閣議決定)の策定等の措置が講じられ」たことを踏まえて発出されたものである。
  
  しかしながら、上記事務連絡は、「生活保護制度においては、エアコンも含め日常生活に必要な生活用品については、保護費のやりくりによって計画的に購入していただくものである」という従前からの原則論を強調したうえで、3で述べた通知を周知するだけのものである。
  
  また、厚生労働省社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室は、令和5年8月7日付けで「生活保護世帯に対するエアコン購入に係る生活福祉資金の貸付について」と題する事務連絡を発出したが、これも「猛暑日が続いていることから生活保護世帯からエアコン購入に係る生活福祉資金の貸付申請が増加することが見込まれ」ることから、貸付にあたって「迅速な対応」を依頼するものに過ぎない。
  
  いずれも2018年からの極めて制限的な施策を所与のものとして繰り返すだけであって、熱中症対策強化のための新法まで制定された深刻な現状に対応したものとは到底いえない。したがって、本要望書で要望するとおり、エアコンの購入・設置・修理に要する費用の支給をしやすくする抜本的な施策を速やかに実施することが切実に求められている。

                                         以 上


 

 

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