ご案内をいただきましたので転載します。
東京都江戸川区で、職員が生活保護利用者の死亡を把握しながら長期間放置し、第三者によって一部白骨化した状態で発見された事案が発生していました。
同区が、本年8月15日、外部専門家等による検討委員会の設置を公表したことを受け、生活保護問題対策全国会議は、本日、東京都江戸川区に対して公開質問状を、同区が設置した検証委員会に対して要望書を提出しました。
http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/blog-entry-489.html
いずれも上記リンクからお読みいただけますが、以下、公開質問状のみ張り付けました。
当会の主張の要点は以下のとおりです。
1 検証委員から区議会副議長は外すべきこと
2 事案の違法性の有無について検証すべきこと
3 検証内容をさらに具体化・明確化すべきこと
4 検証委員会の議論を公開すべきこと
2023年8月21日
生活保護行政に関する公開質問状
東京都江戸川区長
斉藤 猛 殿
生活保護問題対策全国会議
代表幹事 弁護士 尾藤廣喜
当会は、弁護士、司法書士、研究者、ケースワーカー、生活保護利用当事者、その支援者等で構成され、生活保護制度の違法な運用を是正するとともに同制度の改悪を許さず、生活保護法をはじめとする社会保障制度の充実を図ることを目的として活動している市民団体です。
今般、2023年3月に発覚した保護利用者の死後放置事件(以下「本件」といいます。)につき、「江戸川区生活保護業務不適切事案の検証及び再発防止対策検討委員会」(以下「検討委員会」といいます。)が設置されることをホームページ等で知りました。
本件は、以下にも述べますとおり、生活保護法の運用上のみならず、憲法25条で保障されている「生存権」保障の点から見て、極めて重要な事件であり、検討委員会の設置の経過、委員の構成、検証・検討内容について、看過できない点がありますので、以下のとおり、意見を申し述べるとともに、これにつき、回答されたく要請致します。
なお、御多忙中にお手数をおかけして恐縮ですが、2023年9月1日までに連絡先あてに書面にてご回答いただきますよう、よろしくお願い致します。回答内容は当会HPなどで公表させていただきますので予めご承知おき下さい。
1 委員に「区議会副議長」が含まれている点について
今回の検討委員会については、貴区のホームページ上、「外部専門家等による委員会の設置」とありますとおり、第三者委員会として設置して、調査にあたるものと理解しております。
行政における第三者委員会の委員は、適法かつ適正な行政の執行を確保するため、公正・中立な立場から、対象事案につき事実関係を把握・認定し、必要に応じて意見等を形成し、これを報告することを目的とするという設置の趣旨にふさわしい者が選任されるべきであり、対象事案につき、識見を持ち、予断と偏見を排することができる者であり、かつ、利害関係を有しない者でなければならないことは当然のことであります。
ところが今回の検討委員会では、「区議会議委員代表委員」として、「区議会副議長」が構成委員とされています。「区議会副議長」は、貴区の関係者であり、明らかに第三者ではありません。
日本弁護士連合会では、2021年3月19日付けで「地方公共団体における第三者調査委員会調査等指針について」と題するガイドラインを公表しています(注)が、これには、「事案の関係者が調査の主体となり、又はこれに加わって調査の主体の一部となることを想定していない。事案の関係者がこのように調査に関与する場合は、公正性・中立性を疑われるおそれがあるからである。」として、「利害関係者」の具体例として、「第三者調査委員会を設置した地方公共団体において職員(非常勤特別職員を除く。)や議員の職にある場合」をあげています。
したがって、検討委員会においては、「区議会副議長」を構成委員とすべきではなく同委員から排除すべきものと考えますが、この点につき、どのように考え、どうされるおつもりなのかにつき明らかにされるよう求めます。
2 事案の違法性の有無についての検証・検討がないこと
今回の事案は、今年1月に生活保護利用者が自宅で死亡していることを担当職員が把握したものの、死亡による事務処理(保護の廃止、葬祭業者への連絡、葬祭扶助の手続きと支給等)を行わずに放置し、3月27日に一部白骨化した状態で第三者により発見されて顕在化したというもので、前代未聞の事態です。人間の尊厳を守り、生存権を保障する立場にある自治体(保護の実施機関)が、遺体が白骨化するまで放置するなどということは到底許されないところであります。
特に、葬祭扶助の受給権は、「日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障する」という生活保護法(以下「法」といいます。)1条の定め、そして、「すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。」との法2条の定めを受けた法18条の定めにより、権利として保障されています。そして、死後の葬祭については、まず、葬祭を行うべき扶養義務者がいるかどうかの調査とその結果に基づき葬祭の打診を行い、扶養義務者がいないときは、葬祭を行う者に葬祭扶助を行なうことになっています(法18条1項、2項)。ところが、本件では、上記のとおり、死亡による事務処理(保護の廃止、葬祭業者への連絡、葬祭扶助の手続きと支給等)を行わずに2か月以上放置し、第三者の発見により死亡が顕在化したという事案であり、単に「不適正な処理」であったのではなく、法1条、2条、そして18条に違反した違法な処理というべきであります。
また、法26条では、「保護の実施機関は、被保護者が保護を必要としなくなつたときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定し、書面をもつて、これを被保護者に通知しなければならない。」とされていますが、これもなされておらず、法26条にも違反しております。
以上の点についての真摯な検証・検討がなければ、真の意味での再発防止は図れません。
よって、本件事案の検証・検討内容に「本件の処理について違法な処理があったかどうか。また、違法な処理があった場合には、その具体的な内容」を加えるべきと考えますが、その点、どのように考え、どうされるおつもりなのかにつき明らかにされるよう求めます。
3 検証・検討内容の補充と明確化について
既述のとおり、本件は①担当職員が、生活保護利用者の死亡後に行うべき事務を行わず、2か月以上放置した後、遺体が一部白骨化した状態で第三者に発見されたこと、さらに、②発見された後、事案の公表まで、約3か月が経過していること、③その後の区議会に対する説明が、審議や議決は行わない全員協議会で、しかも、議員からの要請であるとはいえ非公開でなされたことなど、経過自体に極めて不自然な点、情報公開にもとる点が多々あります。
この点についての究明が、再発防止、市民への情報公開による違法な処理の防止の観点から重要であると考えますが、現在の検証・検討内容では、その点が検証・検討内容になっているのかどうか必ずしも明らかではありません。
よって、①担当職員が生活保護利用者の死亡後に行うべき事務を行わず2か月以上放置した後、遺体が一部白骨化した状態で第三者に発見されたことの経過と原因、さらに、②発見された後、事案の公表まで約3か月が経過している理由、③その後の区議会に対する説明が、全員協議会で、しかも非公開でなされたことの妥当性について、本件事案の検証・検討内容に明確に補充するべきと考えますが、その点、どのように考え、どうされるおつもりなのかにつき明らかにされるよう求めます。
4 本件検証委員会を公開すること
行政における第三者委員会は、適法かつ適正な行政の執行を確保するため、公正・中立な立場から、対象事案につき事実関係を把握・認定し、意見等を形成し、これを報告することを目的とするものであり、市民としても、その審理過程と内容について、重大な関心を持っているところであり、その公開は不可欠です。
過去、生活保護制度の問題点について第三者委員会で検討した「北九州市」の事案、そして、「小田原市」の事案は、いずれも審議過程が公開されてきました。
したがって、本件検証委員会についても審理を公開するべきだと考えますが、その点、どのように考え、どうされるおつもりなのかにつき明らかにされるよう求めます。
私たちは、貴区における今回の事態は、単に保護担当者による事務懈怠だけでなく、そもそも保護の実施機関が十分な進行管理を行う体制になっていたのかどうか、また、事件発覚後の事後処理として適切な処理がおこなわれていたのかが問われている事件であると考えています。
また、これは、全国の生活保護現場で蔓延している専門性の欠如と生活保護利用者に対する差別意識が極端な形で顕在化したものでないかとの懸念を抱いています。その意味では、貴区だけの問題ではないと考えています。
かつて、小田原市は、「保護なめんなジャンパー事件」を契機とし、第三者委員会による徹底的な検証と提言を受けて、制度運用の理念と基本方向を根本的に改めることで、市民に寄り添う生活保護行政に生まれ変わりました。
本件検証委員会において、実のある議論が重ねられ、それが同様の事件の再発防止、生活保護制度の根本的運用改善の大きな力になりますよう、切に願って質問させていただいた次第です。
(注)「地方公共団体における第三者調査委員会調査等指針について」は、https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/opinion/2021/210319.pdf
を参照。