2025年10月18日(土)、一般社団法人刑事司法福祉フォーラム・オアシスが主催する公開フォーラム「拘禁刑の施行と矯正の未来」に参加してきました。会場は法曹会館(東京都千代田区)2階「高砂」。現地会場とオンラインを併用したハイブリッド形式で開催され、全国各地から多くの関係者が参加されていました。
今回のフォーラムのテーマは、2025年6月に施行された「拘禁刑」。刑事司法分野の大きな変革となるこの新制度について、法務省関係者や矯正現場、福祉分野の実践者たちが集い、それぞれの立場から課題や展望を共有する貴重な機会となりました。
法務省幹部による話題提供
まず冒頭では、法務省矯正局の山本宏一氏による問題提起がありました。山本氏は、これからの矯正が「黙って刑に服していればいい時代」ではなく、「受刑者一人ひとりの生活再建を支えること」が求められる時代に突入していることを明言。拘禁刑が単なる処遇の枠組みにとどまらず、「社会復帰までのプロセス」に光を当てるものであるべきと強調されていました。
とくに印象的だったのは、次の一言でした。
「社会の中でどう生きていくかは、一人ひとり異なる。だからこそ、刑務官や法務教官、矯正職員が、受刑者と一緒にその答えを探していく時代に来ている」
従来の画一的な処遇モデルからの脱却と、対話と共働による矯正の未来像が、明確に示された言葉でした。
福祉分野からの提言:支援のリアリティを届ける
続いてのトークセッションでは、実際に福祉の現場で受刑者支援を行っている方々から、現場感あふれる提言がなされました。
社会福祉法人 南高愛隣の阿部百合子理事は、知的障害のある受刑者を対象としたモデル事業の実践を通じて、地域支援の難しさを率直に語られました。
「教育的処遇を通じて変化があったかどうか、福祉側がその情報を得られることで、信頼関係構築の糸口にできる。ヒントをもっと共有してほしい」
矯正と福祉、それぞれの領域が「線」でつながっていないという現状に、課題意識を強く感じさせるご発言でした。
また、千葉県地域生活定着センターの岸恵子センター長からは、面接環境に関するリアルな課題提起がありました。
「本人は小さな椅子に座らされ、支援者は立派な椅子に座る。そういった構造が“上下関係”を無意識に強調してしまい、対等な福祉面接が成立しない」
このような細部に宿る権力構造の再検討は、福祉面接において極めて本質的な視点です。人間の尊厳と対等性が担保される場づくりへの視座が、あらためて問われました。
拘禁刑が問いかける「つながり」の再設計
拘禁刑は、自由刑体系の刷新という制度的側面だけでなく、「処遇と支援」「矯正と福祉」「刑務所と地域社会」それぞれの間に存在してきた“溝”をどう埋めていくかを、私たちに問いかけています。
その意味で今回のフォーラムは、各領域の専門家が壁を越えて向き合う、貴重な対話の場だったと感じます。法務省の山本氏が繰り返し述べていた「一歩ずつ進めていくしかない」という言葉には、制度だけでなく“人”の側の変容もまた必要であるという覚悟がにじんでいました。
矯正の未来とは、誰かに委ねられるものではなく、私たち一人ひとりが関わりを通じて築いていく「社会の形」そのものです。
拘禁刑の施行を契機に、刑務所の中と外、制度と生活、罰と支援のあいだにある「断絶」を、どう橋渡ししていくのか。私たち福祉実践者の責務が、これまで以上に問われる時代になったことを実感する一日となりました。